WORK

Project Report 01

新規事業を見据え、
石炭ターミナルの
運営に挑む。

O&M(オペレーション&メンテナンス)事業への
道筋をつけるために

3月の埠頭を渡る風は、身を切るようだった。だがその冷たさなど感じないほど、中下丈正の心は燃えていた。「やっと始まった…」。荷揚げを終えて海の向こうへと遠ざかっていく最初の石炭運搬船を見送りながら、中下はそうつぶやいた。
話は2011年にさかのぼる。国土交通省「国際バルク戦略港湾」に福島県の小名浜港が選定され大型石炭ターミナルの整備が決定した。この事業にIHIが地元企業と共に参画。IHI運搬機械はその協力会社としてターミナル整備・運営を担うことになったのだ。その話を耳にしたとき中下は「千載一遇のチャンスだ!」と膝を打ち、自らもぜひ加わりたいと希望したのである。
プロジェクトの背景には、IHI運搬機械にとっての戦略上の重要な狙いがあった。これまで石炭搬送設備を納めた海外のターミナルからは、その運営への協力も求められることが多かったのだが、そのノウハウが少なく要求に十分応えられていなかった。小名浜東港のプロジェクトに参加すればそのノウハウが得られ、将来、海外でのターミナル運営にも乗り出せるだろう。これがO&M(オペレーション&メンテナンス)事業。IHI運搬機械の新規事業を拓くという大きなミッションのもと、中下はプロジェクト立ち上げに奔走することになった。

協力企業、地元関係者と信頼関係を築く

小名浜東港では既に福島県・小名浜埠頭が整備した一部の施設で暫定運用を開始することが決まった。そのため、IUKは人材育成に取りかかった。IUKの顧客である北海道のコールセンターに、若手社員の教育を依頼したのである。実はこれは極めてレアなケースで、中下はまさか引き受けてもらえるとは考えておらず、先方のOKの返答につい「本当に?」と聞き返してしまったという。
「若い人材が勉強に来てくれることでこちらの若手も刺激になる、という返事でした。損得勘定抜きの協力が得られた背景には、当社との長年にわたる誠実な信頼関係がありました」。この若手の教育出向は、現在も引き続き行われている。
人材育成と並行して暫定運用と本格運用のシミュレーションに取り組んだ。福島県・小名浜埠頭が整備した施設に加えて、ベルトコンベヤ・トリッパー付ベルトコンベヤ、シップローダーなどを計画した。地元の荷役業者に協力を依頼し、月に1度の定例会を重ねて、安全で高効率の石炭ターミナルの実現に向け調整を重ねていったのである。ホームセンターから買ってきた砂を石炭に見立てて山にし、模型で運んでみるというシミュレーションも一緒にやってみた。「少しずつ信頼関係ができ、“おまえだから”“おまえの言うことなら”と言ってもらえるようになった」と中下は振り返る。

日々の知見を積み重ねていく

「小名浜で本格的に仕事をするのは初めてで、地元の人々の協力を得るために、とにかくフル稼働で走り回っていました。」という中下。何度もシミュレーションを重ねたとはいえ、なにしろ石炭ターミナルの運営は初めてのことである。操業開始を前に胸にあるのは、不安ばかりだった。
そして迎えた2020年3月。石炭を積んだ初めての船が小名浜東港に姿を現した。中下は「ついに来た、という思いしか浮かびませんでした」と振り返った。接岸した大型船から石炭を揚げるために約60人の荷役作業のプロたちが集まった。その中で中下は、オペレーションを無事終えるために中央操作室から現場まで構内をひたすら走り回る。そして約1週間の作業を終え、何事もなく船は出航していった。冒頭に紹介したのは、そのときのシーンである。 以来、石炭ターミナルは順調に稼働し、12月初旬までに10隻の石炭運搬船が小名浜東港にやってきた。4月から単身赴任で現場事務所につきっきりの中下は、日々のオペレーションやメンテナンスを通じてデータを取り、分析して、ノウハウを蓄積しているところである。それは将来のO&M事業の展開において、必ずや貴重な財産となるはずだ。その1歩を踏み出したという手応えを胸に中下は、次は海外に飛んでO&M事業の推進役になりたいと考えている。 本当のチャレンジは、これからだ。

PROFILE

中下 丈正

Nakashita Takemasa 運搬システム事業部 メンテナンス統括部 
小名浜東港オペレーションセンター部
1996年入社
法学部管理行政学科卒

「入社以来、20年以上にわたって運搬機械の営業一筋にキャリアを重ねる。現在は小名浜東港にあるオペレーションセンターに常駐。営業の時と仕事のスタイルはまったく変わってしまったが、その変化を楽しみながら日々を過ごしている。